中国四川省の高山植物と風景
2010.6.24~2010.7.8
ミニヤコンカ連峰 主峰7556m 2005.6.26

貢嗄山(ミニヤコンカ)は四時雪を戴きその主峰は標高7556m、ヒマラヤ山脈の東端では最高峰である。
周りには荒々しい陵角を天に突き上げた無数の山塊群が連なっているが、標高6000mを 越える山はなく、その
高さは群を抜いている。日本では、1981年5月10日、北海道山岳連盟の登山隊は頂上まで100mの地点に迫り
ながら、アタック隊12人のうち1人が滑落、悪天候と疲労で登頂を断念して下山中さらに7人が滑落し、日本の
登山隊による海外史上最悪の惨事になった山として知られている。
私が2005年6月初めてこの地域を訪れたときの貢嗄山連峰は、朝日を浴びて金色に輝き息をのむほど美しい
姿を見せてくれたが、今回訪れたこの山の四号地の辺り前方は厚い雲に覆われ、その姿を望むことはでき
なかった。ただこの巨大な山の凄さを想像させるような氷河が、その厚い雲の切れたところから現れ、山麓に
むかって不気味に下り落ちていた。末端部の流速は年間3m~8mというから、眼で見るかぎり流れ動いている
という印象はない。
貢嗄山は3つの長い氷河をもっている。最大のものは眼の前に横たわる海螺溝氷河で、その幅は 500m~
1100m、長さは15kmに及び、中国で最も長い氷河と言われている。 しかしこの氷河も地球温暖化のためか、
その末端は徐々に上部に移動し、5年前私たちが自然散策 のため訪れた辺りは跡かたもなくなくなっており、
その上を融けた氷河が激流となって森の中に奔り下っていた。
朝日に輝く日照金山 2005.6.26

朝日に輝く日照金山 2005.6.26 ミニヤコンカから流れ落ちる氷河

貢嗄山連峰が望める標高3700m付近の4号地辺りでは、色鮮やかなシャクナゲ、リュウキンカ、イワベンケイ、
オダマキ、シロバナヘビイチゴによく似たイチゴ、山麓の氷河が融けて流れる渓流地では赤いシオガマ、黄色い
スミレ、ツルカノコソウ、センニンソウ、サンカヨウの仲間と思われる可憐な花々が眼を楽しませてくれた。
ヒマラヤ山系では日本の植物に似たものをよく見かける。また上述した北海道山岳連盟により、カンアオイなど
を食草とするギフチョウの一種が、ミニヤコンカ山麓で発見されている。
太古の昔、日本列島は大陸と陸続きになっていたと言われているが、日本の植物や昆虫のル-ツを辿れば、
その多くはヒマラヤ山系にあるのかもしれない。
写真左のリュウキンカは日本のリュウキンカとほぼ同じもの。四川省の高山地帯の渓流地に数多く見られた。
和名は立金花と書く。花茎が立ち、金色の花をつけることによる。花びらに見えるのは萼片で、 花弁はない。
湿地水辺等に生える多年草。
右は、やはりオランダイチゴ属のシロバナヘビイチゴによく似ている。 日本で栽培されているイチゴも、オランダ
イチゴ属。江戸末期にオランダ人が最初に日本に持ち込んだことから、この名がついたものらしい。
キンポウゲ科 リュウキンカ属 2010..6.26 バラ科 オランダイチゴ属

日本のサンカヨウに近いものと思われる。右は氷河上の風当りの強い岩礫地斜面に生えていた。
メギ科 サンカヨウ属 2010.6.26 ベンケイソウ科 イワベンケイ属

キスミレの仲間、キバナノコマノツメに近いものだろう。 右はクレマチス.モンタナと思われる。葉は3出複葉
でつる性の木本。
スミレ科 スミレ属 2010..6.26 キンポウゲ科 センニンソウ属

四姑娘山(ス-クウニャン)は貢嗄山と共に四川省を代表する高山である。4人姉妹のように4つの峰からなり、
長女大姑娘山は標高5355m、次女二姑娘山は5454m、三女三姑娘山は5664m、 そして末娘の四姑娘山は
6250mと一番高い。 中国のアルプスとも呼ばれ、2006年世界自然遺産に指定されている。
山腹からやや下は鍋荘坪と呼ばれるなだらかな草原が広がり、山麓は清冽な雪融け水が流れる長坪溝へと
続き、そこから車で 10分のところに双橋溝の入口がある。鍋荘坪ではハイキングを楽しんだ。
登山口では眼の覚めるような赤いボタンが出迎えてくれた。そしてゆるやかな山道の途中ではウスユキソウ、
シオガマギク、イチリンショウ、紫色のサクラソウ、キリンソウ、クサジンチョウゲの仲間たちが見られた。
鍋荘坪のハイキング 2010.6.30
日本で園芸種として栽培されているボタンは、中国原産の落葉低木、自然のものは見られない。野生の
ボタンに初めて出会った。登山道脇の岩陰にひっそりと咲いていたが、その姿は華やかで美しい。夢中で
カメラを向けていたら、仲間ははるか遠くを歩いていた。
右はクサジンチョウゲと呼ばれ、ヒマラヤ一帯に広く分布する。チベット圏では経文を書く紙の材料にこの
クサジンチョウゲを使うらしい。
ノボタン科 ノボタン属 2010.6.30 ジンチョウゲ科 ステレラ属

除虫菊は明治初期に輸入、蚊取り線香や農薬の原料として栽培された。ウスユキソウ(薄雪草)の名は、
淡い白色の苞葉を薄くつもった雪にたとえたもの。
キク科 ジョチュウギク属 2010.6.30 キク科 ウスユキソウ属

登山口から50分程歩いて行くと、瞬間アッと息をのむような大きな景観が眼に入ってきた。 長女大姑娘山腹
に広がる鍋荘坪である。あまり深くないお椀をやや斜めに伏せたような広い草原には、放牧された馬がのんびり
と草を食み、イブキトラノオによく似たタデ科の植物、エ-デルワイスに近いと思われるウスユキソウの花々が
一面に咲き乱れ、その中に、リンドウ、キキョウ、ヤマハハコ、 アズマギクの仲間たちが華やかな彩りを添えて
いた。
四姑娘山には薄い雲がかかりその全景を見ることはできなかったが、一瞬の晴れ間に槍のような鋭い山顚を
青空に突きあげた美しい姿を捉えることができた。
四姑娘山の主峰 標高6250m 2010.6.30

私が5年前ここに来たときは抜けるような青空が広がり、四姑娘山の頭上には美しい笠雲がかかっていた。
この地域でも笠雲は、数年に一度ぐらいしか見られない非常に珍しい現象だという。おそらくこの地域に多く住む
チベット族の人たちは、この現象をまさに神の山に後光がさしていたと感じたにちがいない。四姑娘山はチベット
族の人たちにとって聖なる神の山なのである。 しかし笠雲は、上空に猛烈な風が吹き荒れているために起こる
現象なのだろう。この日を境に天候は下り坂に変わっていった。
笠雲のかかった四姑娘山の主峰 2005.6.29

四姑娘山麓には長坪溝と呼ばれる長大な渓谷が伸びている。全長29km、総面積は100㎢。
私たちはシャトルバスに乗って長坪溝のハイキングコ-スの入口まで行った。入口には明の時代に建てられた
チベット仏教の寺が、文化大革命のときに破壊されたまま修復されずに残っていた。
アップダウンのある渓流沿いの山道には木道がつくられ、歩きやすいようにはなっていたが、この コ-スは標高
3600mから3800mのところにあり、早足で歩くとかなり息苦しい。周囲は常緑樹や落葉樹が生い茂る森となって
おり、歩道脇には色鮮やかな真紅のボタン、サクラソウ、シオガマ、フウロソウ、高さ1m位のフロミスの仲間と
思われるシソ科の植物などが見られた。
サクラソウ科 サクラソウ属 2010.6.29 オミナエシ科 カノコソウ属 2010.6.29

シソ科 フロミス属 2010.6.29 ゴマノハグサ科 シオガマギク属 2010.6.29

このコ-スの最終地点に枯樹灘と呼ばれる視界が大きく開けたところがあるが、そこに数百本もあろうかと
思われる枯れた、しかしまだ生きている針葉樹のような木が、川の中州や流れの中に立ち並んでいた。ここは
四姑娘山を望む 絶好のポイントとされているところ。しかし今回は生憎の曇り模様で、時々雲の隙間からその
頂きが見え隠れしていたが、スッキリした姿を見ることはできなかった。
枯樹灘の風景 2005.6.29

双橋溝は入口から最奥部まで全長35km、総面積は210㎢。標高3200mから3840mのところにある広大な
渓谷で、東洋のアルプスと呼ばれている。
シャトルバスに乗りしばらく行くと緑豊かな草原が広がり始め、その両側には切り立った5000m級の山々が連なり、
ところどころ山頂付近から長い尾を引いた滝が岸壁をつたわって流れ落ちていた。 滝は車窓から見える範囲
だけでも、長いもので800mから1000m位はあるだろうと思われた。
道の側には何本もの滝の流れを呑み込んだ激流が、白いしぶきを飛ばしながら奔り下っていたが、辺りの視野が
大きいためか渓谷というよりは、長大な回廊に広がる高原のイメ-ジである。 当日は激しい雨が降っていたため、
いくつかの観光ポイントでバスを停めて下車しても、すぐにバス に戻ることが多かった。ただ最奥部に着いたとき
は小降りになっていたため、バスから降りて辺りを散策した。
双橋溝の風景 2010.7.1
そこには数軒の露店が置かれてあり、いくつかの種類の干し果物や木の実が並べてあった。その中にサンザシ
の実があったので、そこに居た若いチベット族の主婦に10元紙幣を渡すと、思ったより多くの量を袋の中に入れて
くれた。ところが昔なつかしい竿秤で量ってくれた彼女のしぐさが素朴で何ともおかしく、サンザシの実を入れた
袋を受け取るときに思わず地面に落してしまった。 その瞬間彼女はニコッと笑って、取りこぼした量の倍ぐらいの
実を素早く手で掴んで袋の中に入れてくれたのである。少し恥ずかしかったが何とも心温まる思いがした。
サンザシの実はやや固かったが、噛むとほの甘い 味がして旅のおやつがわりにして食べた。
車窓からはピンク色の絨毯のように広がるサクラソウや、黄色いサクラソウ、黄色いシオガマの群落が眼に
ついた。
雨の双橋溝 2010.7.1

巴郎峠は四姑娘山系の一角にあり、四姑娘山の父親とも呼ばれている。峠付近から中腹の山の斜面には、
ケシ科のポピ-類をはじめ様々な高山植物が見られる。私たちは鍋荘坪のハイキングを終えたあと巴朗峠に
向かった。わずか15km位の道のりではあったが、ぬかるんだ泥土がダンゴ状態になった山道のため、バスは
大きく左右に揺れ動き、工事現場で止められたり、泥土にはまりこんで動けなくなったりして、峠下まで来た時
には1時間30分位かかっていた。
峠下から山頂に向かう途中、レッドポピ-とイエロ-ポピ-に出会いバスから降りて写真を撮った。 そこから
さらに300m位登ったところで、車窓からブル-ポピ-らしきものがチラット眼に入ったが、帰りの時でもよいと
思い、そのまま峠山頂まで登って行った。
5年前には、峠の頂上付近にもブル-ポピ-他いろいろな高山植物が咲いていたが、2008年の四川省大地震
の影響のためか、辺りは崩壊した泥土が覆い被さり、草木らしいものはほとんど見られないほど荒廃していた。
標識を見るとここは標高4487m、一瞬”アレッ”と思った。確か5年前は 4523mと記されてあったように思う。
40m近くはどこにいったのだろう?---その差はおそらく大地震に よりその分だけ陥没したか、大きな揺れのため
崩れ、削り取られてしまったのかもしれない。
巴郎峠にて 標高4487m 2010.6.30

ここで眼下の景色をゆっくり眺めながら、タバコを一服と思ってライタ-に火を点けようとしたが、なかなか
点かない、カチカチと音がするだけである。何回もやっているうち何とか点火することはできたが、やはりここは
標高4487mの高山なのだ。空気は薄く歩くと多少頭がクラクラする。
ブル-ポピ- (ケシ科 メコノプシス属) 巴郎峠 2010.6.30

復路、ブル-ポピ-らしいものがあったことをツア-メンバ-の人たちに知らせ、皆の眼で探そうと声をかけ、
バスをゆっくり走らせてもらってしばらく行くと、やはりブル-ポピ-が咲いていた。
往路眼についたところと同じ、峠山頂から200m位下った山の斜面である。バスを停めた車道左上の斜面は道に
沿って大きくえぐり取られ、オ-バ-ハングになっていたが、何とかそこを這い上がり、頭がクラクラするのも忘れ
て、一目散にブル-ポピ-が咲いているところに 駆け寄って行った。
今から考えてみると、花が逃げるわけでもなし、何もそれほどあわてなくてもよいものを、その時は懐かしいものに
出会った嬉しさで夢中になっていたのであろう。少し落ち着いて周囲を見渡すと、他にも崩れた岩の破片が散ら
ばる草地に、点々とブル-ポピ-が咲いていた。私は形の良いものだけを次々にカメラに収めていった。
ブル-ポピ-(ケシ科 メコノプシス属) 巴郎峠 2010.6.30

チベットや中国南西部の高山に咲くブル-ポピ-は”幻の花”と呼ばれている。それはそうした地帯に外国人
が入ることができなかった時代があり、当時見たくても見れない花だというイメ-ジからその名がつけられたもの
らしい。まさにブル-ポピ-は幻の花のイメ-ジにふさわしく、ヒマラヤに咲く高山植物の女王と言ってもいい
ような気品をもっている。その透きとおるようなブル-は何とも清楚で、心が吸い込まれていくように美しい。
メコノプシス属
イエロ-ポピ- 巴郎峠 2010.6.30 レッドポピ- 巴郎峠 2010.6.30

九寨溝は成都の北400kmにあり、四川省では最も人気のある観光地である。5年前は巴朗峠から陸路を走り
九寨溝まで行ったが、その道はやはり2年前の大地震により至るところで破壊寸断され、今もなお修復されて
いないため、私たちは来た道を戻り成都から空路で九寨溝に入った。
九寨溝には原生林が生い茂った渓谷に大小100あまりの湖沼や瀑布が点在し、周囲の森を鏡のように 映し出し
ている。湖底が透きとおるように美しいのは、一度地下に浸み込み大量の石灰を 含んだチベットやヒマラヤの
雪融け水が、再び九寨溝に湧き出して、その石灰の粒子が水を濾過しているためらしい。
九寨溝 2010.7.4

九寨溝はかってチベット族の9つの集落があったことからその名がつけられたという。寨は村、溝は谷を意味
する。1992年ユネスコの世界自然遺産に指定された。総面積は720㎢、入口の標高は1900m、最奥部は
3150m、全長50kmに及び、何か所かに遊歩道が設けられている。私たちは九寨溝に滞在した3日間、辺りの
景色を眺めながら遊歩道をゆっくりと散策した。
散策の途中、ナナカマド、ミズナラ、ハンノキ、シラカバ、ヤナギ、カエデ、タラノキ、カクレミノ、トクサ、ワスレ
ナグサ、シオガマ、コマツナギ、メタカラコウ、シシウド、シロバナヘビイチゴ、ハギ、ギンリョウソウ、ツルカノコ
ソウ、オダマキ、グンナイフウロ、アキカラマツ、イヌショウマ、ウツボグサ等、その仲間と思われる数多くの植物
に出会った。
ゴマノハグサ科 シオガマ属 九寨溝 2010.7.4 シソ科 ウツボグサ属

ただ観光客の多さには閉口した。雨が降ったり止んだりしている中、遊歩道は行き交う大勢の人たちで
ごったがえし、ほとんど身動きできない時もあった。私たちツア-メンバ-の一人は途中行方が判らなくなり、
迷子になりそうになったほどである。夏の新緑から秋の紅葉シ-ズン中の観光客数は、毎日1万人~2万人と
言われている。そのほとんどは中国人である。
そのためか、神秘的な雰囲気につつまれ森閑とした風景の佇まいも、多少壊されているように感じた。しかし
ブル-やエメラルドグリ-ンの湖面には、周囲の森の影が鏡のように映し出され、その美しさにはしばし時を
忘れる思いをした。
九寨溝 2010.7.3

九塞溝 2010.7.3 九塞溝 2010.7.4

九塞溝 2010.7.4 九塞溝 2010.7.3

九塞溝 2010.7.3 九塞溝 2005.74

九塞溝 2010.7.3

黄龍は氷河によって削りとられた深い渓谷に、無数の棚田状の池が連なっている景勝地である。
1992年九寨溝とともに世界自然遺産に登録されている。面積は10㎢、入口の標高は3150m、最奥部の
五彩池は3600m、遊歩道の長さは4.2km。渓谷は黄色い石灰岩の台地が連なり、その上を清冽な水がゆっくり
と時には激しくうねりながら流れ落ちていた。黄龍という名は、その姿を黄色い龍をイメ-ジしてつけられたもの
だという。
5年前ここに来た時には徒歩で遊歩道を往復したが、2006年にロ-プウエイが出来て標高3470m地点まで
5分で行けるようになった。ロ-プウエイから降りて五彩池に行く途中、淡い青色のポピ-やアズマギク、リュウ
キンカ、シオガマの仲間たちが見られた。
五彩池は黄龍の一番高いところにあり、テラス状の湖面は、明るい陽光にエメラルドグリ-ンに光り輝いていた。
周りの濃い緑と、透きとおるような湖面の淡いグリ-ンとのコントラストが美しい。
黄龍 五彩池 2010.7.6

黄龍 五彩池 2010.7.6

黄龍 五彩池 2005.7.2

この五彩池のそばの草地にはレッドポピ-の群落が見られ、折からの風にユラユラと揺れていた。
帰りは一人になり、木道でつくられた遊歩道をゆっくりと歩きながら遠くの山塊群を眺めたり、美しい湖沼群を
カメラに収めたりして、登山口まで下って行った。
私がこの遊歩道で一番見たかったのはアツモリソウである。ゆっくり注意しながら歩いて行くと、最初は渓流の
林の下にポツン、ポツンと咲いていたが、しばらく行く うちにだんだん多く眼につくようになり、遊歩道を半分過ぎ
た辺りからは、かなり激しい流れに頭を出した岩場という岩場の上に、赤や黄色のアツモリソウがそれぞれ群落
をなすほどになっていた。 私は 日本で自生したアツモリソウは見たことがない。初めて見たのは5年前のこの
黄龍の渓流地である。
アツモリソウ(ラン科 アツモリソウ属) 黄龍 2010.7.6
黄龍の滝 2010.7.6
黄色いアツモリソウ 2010.7.6

神仙池は九寨溝近くにあり、九寨溝と黄龍の魅力を併せもつ風景区。2003年観光地としてオ-プンしたが、
2008年の大地震のため一旦閉鎖され、2009年9月再開された。九寨溝や黄龍よりもさらに鬱蒼とした森に包まれ、
観光客にもほとんど出会わず、静かで気持ちのよいハイキングを楽しむことができた。深い森の渓流地では、
黄色いアツモリソウ、ウチョウラン、タカネバラ、バイケイソウ、オダマキ、 グンナイフウロの仲間に出会い、広い
草原に出るとリンドウやサクラソウが一斉に花開いていた。
ラン科 ウチョウラン属 神仙池 2010.7.5 ラン科の一種 花の形はトキソウに似ている
神仙池にて 2010.7.5
神仙池の風景が見渡せる標高3600mの峠に行くと、大小の石の破片が混じる草地に、広い範囲に亘り
黒ずんだ赤色をしたアツモリソウが群落をなしていた。黄龍で出会ったアツモリソウはその多くが渓流の中に
あり、なかなか近づけなかったが、ここではそれが辺り一面に生えており、草むらに座り込んで前後左右手の
届く範囲内で何枚もの写真を撮る ことが出来た。
花が大好きなkさんは感極まった声を出して、パチパチとシャッタ-を押していた。彼は今回の旅行で
アツモリソウに出会うのを一番楽しみにしていたらしい。また黄色い花をつけたキク科の植物や、大きい葉を
地面に広げ、紫色の花をのぞかせたシソ科のフロミス属かムラサキ科の一種と思われる植物も見られた。
黒みを帯びたアツモリソウ 神仙池の草原 2010.7.5

シソ科 フロミス属? 神仙池の草原 2010.7.5 キク科 メタカラコウ属
もう一つ四川省の有名な観光地にパンダ保護研究センタ-がある。
パンダは臥龍、四姑娘山などの奥深い山岳地帯に生息するが、最近その数は急激に減少しており、現在
第一級の保護野生動物に指定されている。正式名はジャイアントパンダ、主食はササ、タケノコ、それに昆虫を
食べることもあるらしい。
パンダ保護センタ-は臥龍、成都、雅安にある。しかし臥龍センタ-は2年前の大地震で破壊されたため、
そこにいた大半のパンダは成都や雅安の施設に移されているという。今回私たちが案内されたのは雅安の
碧峰峡保護センタ-。ここで柵で囲まれた野外の施設に放された2歳から10歳ぐらいのパンダが、ササを噛んだ
り互いにジャレあって遊んでいる姿を見ることができた。 このセンタ-では300頭ぐらいのパンダが保護されて
いるということだが、私たちが眼にしたのは数十頭位。
私は5年前、臥龍保護センタ-で生後5カ月ぐらいの子パンダを抱いたり一緒に戯れたことがある。その体験料
は500元(7500円)と高額ではあったが、滅多にないチャンスだと思い他の希望者6人とともに申し込み、子パンダ
が居る柵内に入ることを許された。
パンダ臥龍保護センタ-にて 2005.7.1 碧峰峡保護センタ- 2010.6.25

私たちが近寄ると子パンダは逃げ回るのではないかと思っていたが、中に入るやいなや逃げるどころか7~8匹
の子パンダが、一目散に私たちのところに駆け寄ってきた。ここで生まれここで育てられ、人間に慣れているとは
いえ実に人なつっこい。その中の一匹を抱きかかえようとしたが、かなり重たい。その上私の両腕のなかでバタ
バタと動き回りじっとしていない。 何回か試みるうちにやっと抱きかかえることはできたが、今度は口を開けて
ジャレつき私の頬にしゃぶりつこうとする。ところがその鋭い歯が顔に当り強烈に痛い。子供とは言えやはり猛獣の
歯である。しかしそのしぐさは何とも愛らしく、一緒に夢中になって遊び戯れた。
当時何をしても何を見ても感動することがなかった私だったが、その時ばかりは我を忘れて興奮し、子供のよう
にはしゃいだ。わずか7~8分の間ではあったが、今でも時々思い出すほど楽しいひと時であった。
私が四川省で一番好きなコ-スは康定から丹波に至る大草原のコ-スである。 しかし今回は数日前に折多
山峠で起こったガケ崩れのため、そのコ-スをとることは出来なかった。実に残念であったが、5年前に車窓
から見たその風景はパミ-ル高原を思わせるように壮大で、 今でもその映像が鮮明に頭に残っている。
康定から丹波に至る風景 2005.6.27

その広大な草原には、チベット族の集落が点々と配され、羊やヤクの群がのんびりと草を食み、たまたま馬術
と競馬の腕を競う”賽馬節”と呼ばれるチベット族の祭りにも出会った。
そして草原の中に大きなラマ寺が建てられ、その向うに万年雪に覆われた5820mの雅拉雪山が望まれる雄大
な景色には時を忘れる思いをした。
賽馬節 2005.6.27

さらにブル-ポピ-や青い海のように広がるワスレナグサの大群落、ピンク色の絨毯を敷きつめたような
サクラソウの広がりや、黄色いミズダイオウ(タデ科)の群落に出会った時には大いに感動した。機会を得て
もう一度訪れてみたいと思うところである。
雅拉雪山が望まれるチベット仏教寺院 2005.6.27

ミズダイオウ

―了―
2010年9月 斎藤泰三
私のアジア紀行トップペ-ジ http://www.taichan.info/
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